※本記事は、本協会の会報「マレーシア」Vol.57(2025年5月25日発行)に掲載されたものです。広島県廿日市市立七尾中学校教諭の「川本 宏」様からご寄稿いただきました。
本協会では、一九九五年からサラワク州で熱帯雨林再生活動を行っており、二〇一一年から植林活動を通じた環境国際交流として、大学生や社会人ボランティアによる文化交流などの様々なプログラムも同時に推進しています。 植林活動への参加をきっかけに、サラワク州との柔道交流を始め、毎年地道な交流を継続されている、広島県廿日市市の中学教諭川本宏さんより、コロナ過を経て二〇二三年末に再開された柔道交流のため、昨年末から一月初めにかけてクチンを訪問し、九回目の柔道交流を行った際の訪問記をご投稿頂きましたので、ご紹介します。
はじめに
昨年と同様、九回目の訪問を年末年始で行ってきました。今回は、私のチームのコーチと教え子の三人での訪問でした。いつも同行してくださるクアラルンプール在住の高橋先生にもサポートいただきました。 今回はサラワクの柔道指導に昨年からコーチとして指導している五十嵐君に、「サラワク柔道の課題は何か」ということについて情報をもらっていたので、初心に帰って柔道の投げ技や固め技の原理や、投げ技や固め技につながるトレーニング、反復練習をしっかり行うメニューを考えて、一二月二九日に福岡空港からシンガポールのチャンギ空港経由でクチンに入りました。
大勢での出迎え
今回の訪問は三人と人数も少なかったので、五十嵐君だけが迎えに来てくれるという連絡を受けていました。しかし、到着口を出ると、ニャムさんをはじめ、いつものメンバーが大勢で出迎えてくれました。本当に涙の出る思いでした。そのままホテルに直行し、チェックインまでサポートしていただきました。今回は何もトラブルなく、無事にチェックインできました。
初めてのセントーサでの指導
一二月三〇日の練習

私がサラワクでの柔道指導の初期の頃からのジュニアメンバーが、一〇年も経てば立派な大人になり、新しいメンバーたちの指導者的な立場になっているのを見て、誇らしく思いました。また、これまで毎年お土産として持ってきている柔道衣を着て練習しているメンバーもおり、とてもうれしく思いました。

今回の訪問の挨拶の後、平岡(筆者の教え子でロンドン五輪柔道銀メダリスト*編集部注)にもコメントを送ってもらっていたので、映像で見てもらいました。平岡は現在、アメリカのシアトルに語学留学しており、だいぶ達者になった英語でのメッセージを、みんな興味深い表情で見ていました。

その後、ウオーミングアップをしてから、私の学校でアップとしてやっている体感を高めるトレーニングから始めました。このような基礎的な動きも苦手だと五十嵐君に聞いていたので、時間をかけて行いました。トレーニングの小道具としてペーパートレイを持って行ってたので、手首、肘、肩、肩甲骨の使い方のトレーニングから始めました。

あまり意識して鍛えるところではないので、みんな悩みながら取り組んでいました。その後、私の学校でも取り入れているステップワークのトレーニングをしました。これも普段したことのないトレーニングなので、結構苦労してました。
寝技の実技では、私の教え子が得意としている返し方を、繰り返し反復練習し、乱取りという実戦形式の練習をしていきました。
私が感じるのは、九回目の指導ですが、確実にレベルアップしてきているのですが、技術面では基本的な考え方や理論もしっかり理解したうえで、反復練習する必要があると感じました。

川本塾の新しい道場を見学
ニャムさんがしきりに「Ssensei,new dojo」としきりに言うので、何かと思いきや、セントーサの道場からほど近い場所に、新しい道場を作っていて、しかもこれまでの道場よりだいぶ広いところでした。まだ、工事中の段階で、畳を敷く位置などを一緒に考えることになりました。一緒に来ているコーチは、建築士なので専門的に寸法などのやり取りなどして、レイアウトを作っていくことになりました。次回の訪問の時には、ここで指導することになりそうです。

ただ、ニャムさんが現在、仕事の関係でシブにいるみたいなので、ニャムさんと相談して、これまでお世話になっている方々が柔道の指導に携わっておられる、サバ、シブ、クチンをそれぞれ順番に訪問して、指導に当たってはどうかという依頼も受けました。ますます、今後の柔道指導での訪問の楽しみが増えました。
オランウータンのお出迎え
何年かぶりにオランウータンのセメンゴ自然保護区に連れて行ってもらいました。

今の時期はお目にかかれないことが多いそうなのですが、奥へ進んでいくと係員さんが手招きで呼んでくれて、指さす方向を見ると、いきなりオランウータンが出迎えてくれました。さらに奥の餌付けの台のところにも、山の奥からロープをつたって他の一頭が降りてきました。なんともタイミングよく訪れることができて、嬉しい気分でした。
一二月三一日、一月一日の練習
今回の指導は、とにかく基本的なことをしっかり指導するという目的だったので、練習時間の大半をトレーニングと反復練習に割きました。現在は、検索すれば優秀な技術はいくらでも視聴することはできます。ただそれらの技術も、しっかりした理論と基本的な体術があって、レベルの高い技術の習得につながっていくものだと思います。立技も寝技も今回はそこをしっかり伝えていきました。ちょうどセントーサの道場は、参加人数を考えるとだいぶ手狭だったので、結果的に今回のような指導がよかったように感じました。

乱取りという実戦形式の練習は、一ラウンドで二~三組しか練習できないので、どうしても周りで見ているメンバーが多くなります。しかも、それぞれの実力差、意識の差がだいぶあるので、どうしたら前向きに取り組んでもらえるか、セントーサでの指導の難しさを痛感しました。

新しい道場ができるまでは、五十嵐君を中心に、お土産で持ってきた私の練習メニューを参考にしてもらいながら、基礎体力と基本的技術を高めていってもらいたいと思っています。
前回の訪問のように、いつも広い場所でできるわけではありませんから、ふだん練習する場所でのメニューを再構築していけると、施設に関係なくレベルアップにつながると思います。
おわりに
クチンでコーチをしている五十嵐君は一年という契約だったのですが、今回の訪問途中で、二年間延長になったという知らせを聞きました。五十嵐君は、バリバリの現役とほぼ一緒の若さと技術があります。この二年間の延長は、ニャムさんはじめ、現地の方々のお取り計らいのたまものだと思います。五十嵐君にとってもいいチャンスですし、サラワクの柔道界にとってもすごいチャンスだと思います。
ただ、今後の大会でさらに実績を上げていくためには、まだまだ課題があるのも事実です。今回の私たちの訪問をきっかけに、専属コーチとして残る五十嵐君を中心に、さらにレベルアップしていくことを期待しています。そして、今後も継続的にサラワク柔道が繫栄していくことを祈っていますし、私もサラワク柔道がマレーシアNO1チームになれるよう、少しでもお手伝いができればと考えています。 今回も改めて思うのですが、私がこのようなクチンでの柔道指導に携われるのも、きっかけを作っていただいた森嶋先生をはじめ、日本マレーシア協会や現地の様々な方々のおかげだと思います。本当に感謝しております。次回の時期は未定ですが、一〇回目の節目の訪問になります。今後も体が続く限りサラワク柔道に関わっていこうと思います。