※本記事は、本協会の会報「マレーシア」Vol.57(2025年5月25日発行)に掲載されたものです。
日本マレーシア協会は日本財団ボランティアセンター(以下、日本財団ボラセン)と協働し、全国の大学生たちをマレーシア・サラワク州へ派遣して熱帯雨林再生の植林活動をする「オランウータンの森再生プロジェクト」を二〇二四年より開始いたしました。本プロジェクトは年四回・毎回約十五名の学生ボランティアを十年間植林現場へ派遣し、先住民の村人と共に植林作業を行うことで十万本の植林を目指すものです。学生の募集は日本財団ボラセンが提供する日本最大級のボランティアプラットフォームである「ぼ活!」(https://vokatsu.jp/)で行われ、学生のセレクションは全て日本財団ボラセンが行っています。学生派遣の第五陣が二〇二五年二月十日~二月二十一日に、第六陣が同年三月十日~三月二十一日に行われ、日本マレーシア協会からは第一陣から第四陣に続いて小菅雄磨理事補が同行しましたので以下報告いたします。
はじめに
日本マレーシア協会の小菅です。日本財団ボラセンと協働して実施する「オランウータンの森再生プロジェクト」の第五陣と第六陣に同行して参りました。今回も新たに「アブラヤシプランテーションへの訪問」「ワイルディング」などの新しい活動を取り入れ、マレーシア・サラワク大学やスウィンバーン工科大学サラワク校などの現地大学生と共に熱帯雨林再生活動を行うことで国際交流も精力的にできました。
また、今までの第一陣から第四陣では「ライン式(ラインプランティング)」という植林方法で実施しましたが、この度の第五陣と第六陣では「密植式(宮脇方式)」という別の植林方法で実施しました。新しい活動の様子と併せて、熱帯雨林再生活動における植林方法についてもお伝えいたします。
ライン式と密植式の植林方法
まず「ライン式」は現地でラインプランティングとも呼ばれ、本協会が熱帯雨林再生事業を始めた当初にサラワク州における森林区を管轄する行政機関である「サラワク森林局」からフタバガキ科の在来種伐採後の二次林へ植林して在来種を再生する際にこのやり方を推奨されて長らく続けている植林方法です。名前の通り植林する場所を一列一列のライン上に数メートル間隔で目印をつけ、そのライン上に沿って植林していく方法で、一定間隔のライン上に植林していくため苗木の数が少ない中でも伐採されて数が減ってしまった樹種や競争に負けた植物を丁寧に育てることができるやり方です。
一方で「密植式」は名前の通り植林する場所を密集させて植林する方法です。この「密植式」は「宮脇方式」などとも呼ばれ、二〇二一年に逝去された生態学者である「宮脇 昭(みやわき あきら)」横浜国立大学名誉教授が提唱された「在来種を複数種類混ぜて密に植えることで自然と同様に植物同士の生存競争を生む植林方法」です。このやり方の大きな利点は「成長速度が速い」ことで、自然と同じ環境で植物の生存競争を生むことで通常の数倍以上の速さで成長するとされています。また、成長速度と併せて根も強く張りやすいため、劣化が著しい更地で早急に植生を回復させる必要がある場合や川沿いで水捌けが悪い土壌などでもしっかり根を張ってほしい場合などで特に有効とされています。今回の第五陣・第六陣の植林地域は水環境改善で建設した小規模ダム周辺であり、ダム建設用重機の道を確保するため一時的に切り開く必要があった場所でした。ダム建設後は切り開いた場所に植林して再生するのですが、切り開いたことで一時的に「日当たりが良くなった」ことから周辺の陰を好む「陰樹」の在来種への影響を考えて早く植生を回復させて陰をつくる必要があったため「密植式」を取り入れてみることにしました。

・・・こうしてみると「密植式」の方が幾分利点が多いように見えますが、通常の数倍以上も密に植える分「苗木」の数も大量に必要で運搬等も含むコストがかかり、やり方も生存競争を生むものなので当然強く育つ木もあれば育たない木もあり、特定の樹種を着実に再生していく際には必ずしも適しているとはいえない面があります。ただ、今回の植林方法は厳密な「密植式」ではなく、「密植式とライン式の中間的な形態」と言えるかもしれません。
アブラヤシプランテーションの見学
日本財団ボラセンとの「オランウータンの森再生プロジェクト」の植林地域であるアペン国立公園は、大規模な民間企業のアブラヤシプランテ―ションと隣接しています。熱帯雨林減少の要因としてアブラヤシの農園開発が挙げられる一方で、アブラヤシからできるパーム油はマレーシアにおける重要な産業の一つで日本にとっても不可欠な輸入品であることも事実です。現状においてアペン国立公園の周辺は「環境」と「産業」が区分けされ、お互いが侵さず領分を守り、ある種「共存」できている特殊な地域です。

この度、第五陣においてアブラヤシプランテーションのマネージャーから特別な許可を貰い見学することができました。アブラヤシとはどのようなもので、国を支える一大産業としてのアブラヤシプランテーションがどのように運営されているのかを見学し、熱帯雨林減少の要因として語られる側面とマレーシアと日本を支える産業としての側面を実際に目で見て肌で感じて熱帯雨林再生との関係を考えて貰うきっかけとなりました。通常はアブラヤシプランテーションを運営する民間企業が外部の団体を招くことはなく、加えて「アペン国立公園に隣接する」アブラヤシプランテ―ションを運営する民間企業が熱帯雨林再生に取り組む日本の学生を友好的に受け入れてくれたことには見学以上の価値があったと思います。

現地小学校への訪問
第六陣においては、アペン国立公園の近くの地元小学校である「SKムボック小学校」へ訪問しました。この「SK(Sekolah Kebangsaan)」とはマレー系の国民学校であることを指し、国語(マレー語)で教育する小学校を意味します。学生たちは小学生とどのように交流するか自分たちで考えて準備し、自分たちが担当するクラスに分かれて小学生の学年に合わせながら「折り紙」「ジェスチャーゲーム」「たけのこニョッキ」など日本の遊びを一緒に楽しみました。

小学校からは学生たちと我々運営スタッフ全員に植林風景を描いた小学生手書きの絵をプレゼントして貰いました。学生たちは大変喜んでひとりひとり大切に持って帰りました。
現地大学生との交流
第五陣ではマレーシア・サラワク大学の修士・博士課程の学生たちと、第六陣ではスウィンバーン工科大学サラワク校の学部生たちと一緒に植林活動をしました。第五陣のサラワク大学の学生達は国籍もマレーシア・ナイジェリア・パキスタン・キルギス・中国など非常に国際色豊かで、三日間植林活動に同行してナイトキャンプでも一緒にアペン国立公園へ宿泊いたしました。

第六陣のスウィンバーン工科大学サラワク校の学生たちはマレー系と中華系で一日だけの植林活動でしたが、日本の学生たちと仲良くなって植林プログラム後のダマイビーチホテルへ自主的に宿泊しに来て自由時間を一緒に過ごすなど積極的な交流がなされていました。

米の収穫体験
学生とバディを組むビダユ族の村人たちが住むトンにボン村の近くにある米畑で第六陣が収穫体験をさせてもらいました。米畑は小高い丘の上にあり、当日は非常に天気も良かったので学生たちは滝汗を流しながら収穫を手伝っていました。

ワイルディング
ただの植林ではなく「熱帯雨林再生」の植林においては「在来種」を植えることが不可欠であり、通常は数年に一度の機会を逃さず在来種の種子を拾って苗木を育てます。しかし、どうしても周辺地域で種子が得られない時期もあり、そういった場合は「森に自生した在来種の苗を収集」して育苗することで熱帯雨林再生を継続してきました。こういった収集を我々の活動現地では「ワイルディング」と呼んでいます。ワイルディングによって得た苗は自生していた場所から苗圃へ移植することによるストレスと環境の変化へ順応する必要があり、加えて苗圃の土壌は栄養素の面で発芽後の十分な根系形成へ影響を与えるため種子からの育苗よりも育成に数倍以上の時間がかかります。
第五陣の学生たちには、バディに在来種や在来果樹の見分け方を教えてもらいながらワイルディング作業をして貰いました。最後の方は見分け方を熟知する学生もおり、バディの助けを借りずとも正確に在来種の苗を籠へ収集しており驚かされました。

苗木づくり
第五陣・第六陣ともに、苗木づくりで土をポットに詰める作業をして貰いました。これが中々大変です。

数百個のポットに土を詰めたらワイルディングで収集した苗をそのポットへ植える作業もしてもらいました。数百個という苗木が出来て次に繋がる素晴らしい活動でした。これらの苗木は数年後に派遣される学生たちが植林予定です。

現地日本企業訪問
マレーシア・サラワク州において活躍する現地日本企業を学生に知って貰うべく、第四陣に続いて第六陣でもサラワク州の州都である「クチン」で事業を展開する「太陽誘電株式会社」の現地法人である「TAIYO YUDEN(SARAWAK)SDN. BHD.」の現地工場を見学させていただきました。

さいごに
この度の第五陣と第六陣で「オランウータンの森再生プロジェクト」の二年目が始まりました。ここまで毎陣新しい活動を取り入れながら進めることができていますが、新しい活動の度に私も現地コーディネーターの酒井和枝さん・アイシャさん、アレックスさんから多くのことを学んでいます。次の第七陣・第八陣も楽しみです。