※本記事は、本協会の会報「マレーシア」Vol.56(2025年1月10日発行)に掲載されたものです。
日本マレーシア協会は、一九九五年よりボルネオ島・サラワク州において熱帯雨林再生の植林活動を行い、二〇一九年には植林活動に関してサラワク州政府と協力協定を締結し、サラワク州政府並びにサラワク森林局・サラワク森林公社等の関係機関と協力して活動を進めております。
また、二〇二一年からは日本国外務省が政府開発援助(ODA)資金をODA政策の内容に沿う経済社会開発事業に対して供与する「日本NGO連携無償資金協力」(以下、N連)を活用して、「サラワク州先住民居住地域における水環境整備による生活改善事業」を行って参りました。 そして今回、二〇二四年八月十九日から二十二日に、本協会有村治子副会長、古屋圭司事務所の渡辺一博秘書、小川孝一理事長、西田重信監事、森林高志理事、小泉文明理事、小菅雄磨理事補が、サラワク州政府及び関係機関への表敬訪問、そして熱帯雨林再生活動とN連事業実施現場等の視察を行いました。現地での表敬訪問及び視察の様子をお伝えします。
はじめに
日本マレーシア協会の小菅です。この度は、本協会の有村治子副会長がサラワク州現地へ足を運んでくださり、関係各所への表敬訪問及び視察を行いました。また、当初は古屋圭司会長もご訪問予定でしたが、どうしてもご都合がつかなくなったことから古屋事務所の渡辺一博秘書が同行してくださいました。
今回の現地訪問においては、サラワク州アバン・ジョハリ首相への表敬訪問を中心に、関係機関であるサラワク森林局ハムデン長官及びサラワク森林公社メルビン副代表への訪問、本協会と二十年以上親交のあるダト・レン・サレー・サラワク州資源環境副大臣への訪問、マレーシア・サラワク大学(UNIMAS)リンダ副学長への訪問など、本協会の植林活動を支える主要機関の要人と有村副会長が現地で実際に会って活動報告や意見交換が叶った貴重な機会となりました。特に、サラワク州ジョハリ首相への表敬訪問の様子は現地テレビ番組や新聞に大きく報道されました。
また、現地活動の視察として、有村副会長と渡辺秘書にサラワク州における植林活動現場とN連事業実施現場を見ていただくことができました。一口に「熱帯雨林再生の植林活動」と言っても、活動をご理解いただく際に写真付きの報告書を読むのと、実際に現地へ足を運んで自分の目で見て肌で感じることには非常に大きな差があると思っています。関係者が具体的に活動内容を理解していてこそ連携や持続的な活動はできるもの。その意味でも、主要な植林活動地域の一つである「サバル国立公園」、N連事業で整備した苗圃である「サバル苗木センター」や村の産物販売所である「道の駅」、そして本協会が熱帯雨林再生の植林活動を最初に始めた一九九五年の活動地域である「バライ・リンギン保護林」の立派な植栽木を有村副会長と渡辺秘書に実際に見ていただけたことは大変に意義深いことだと考えています。
そして、表敬訪問や植林活動地域視察のほか、サラワク州クチン市内にある日本人墓地の訪問と、クチン日本人会の皆様方との交流会も行いました。
以下、現地での表敬訪問及び視察の様子を報告いたします。
サラワク州首相への表敬訪問
サラワク州の州都であるクチンにあるサラワク州首相府にて、タンスリ・アバン・ジョハリ・サラワク州首相を表敬訪問しました。ジョハリ首相は初代サラワク州元首のご子息であり、一九八一年よりサラワク州議会議員を務め、これまで州の主要ポストを歴任した後、二〇一七年よりサラワク州の首相に就いています。
有村副会長からは表敬訪問のお礼と本協会の説明、そしてサラワク州における植林活動の実績をジョハリ首相へお伝えしました。本協会が現状で約九十万本の植林をサラワク州で行っており、再来年には百万本の植林が達成される見込みであることをお伝えしたところ、ジョハリ首相より「ありがとうございます」と感謝の言葉を頂戴しました。植林活動はマレーシアにおける重点政策に組み込まれており、マレーシアが国として行っている「一人一本」の植林キャンペーンの中でサラワク州が占める割合も多い現状があり、サラワク州においても独自に森林再生活動キャンペーンを行っています。そのような状況において、サラワク州と日本マレーシア協会は保護林並びに国立公園内の熱帯雨林再生に関する基本合意書を締結しており、基本合意書に基づいてサラワク州政府と良好な関係を築いたうえで本協会が行う植林活動は大きな役割を果たしています。
ジョハリ首相との会談後には、撮影した集合写真をその場で額に入れて贈呈くださるなどサラワク州政府の方々より多大なお心遣いも頂戴し、終始和やかな雰囲気で表敬訪問を終えました。

サラワク州資源環境副大臣へ訪問
本協会と二十年以上親交のあるダト・レン・サレー・サラワク州資源環境副大臣へ訪問しました。レン副大臣は元サラワク州森林局長官を務められており、本協会とは森林局長官時代からの関係です。その後州議会議員になった後も植林活動には大きな関心を持ち続けてくださり、多大なご協力を頂戴しています。有村副会長より長年のご協力について感謝の念を述べ、本協会の活動報告と忌憚のない意見交換をしました。レン副大臣からは「今後も是非植林活動を続けて欲しい」とお言葉を頂戴しました。

サラワク森林局への訪問
サラワク森林局においては、ハムデン長官を訪問しました。サラワク森林局はサラワク州における森林区を管轄する行政機関です。マレーシアにおいては憲法で土地や森林に関する事項は各州が所有権を有して州法を制定して管理すると定めており、その中でも東マレーシアのサラワク州においてサラワク森林局は独自の林業関連法を施行・運用して大きな影響力を持っています。
有村副会長より本協会の活動や実績をハムデン長官へご報告し、ハムデン長官からはサラワク森林局の活動や現状をお話いただきました。お話の中では、サラワク州として植林活動をどのように進めていきたいかについて言及があり、日本マレーシア協会の活動については継続して欲しいとご要望を頂戴しました。 また、ハムデン長官より本協会の活動内容を盛り込んだサラワク森林局のプロモーションビデオをお見せいただき、本協会の活動をサラワク森林局の実績として捉えてくださっていることを実感しました。

サラワク森林公社への訪問
サラワク森林公社においては、メルビン副代表を訪問しました。サラワク森林公社は、サラワク州における森林管理のうち、国立公園や自然保護区などの完全保護地域の管理と野生動物保護を所管する行政機関です。従来はサラワク森林局も完全保護地域内の森林管理について管轄していましたが、二〇二〇年一月にそれらの権限はサラワク森林公社へ移管されました。本協会の植林活動地域の多くは国立公園内であり、それら国立公園の管轄はサラワク森林公社です。本協会の植林活動の成果として、二〇一六年には「アペン国立公園」が、二〇一八年には「サバル国立公園」が当時の保護林から現在の国立公園へ昇格を果たしています。保護林は州政府の方針で産業用に使われる可能性がありますが、国立公園は永久に伐採されないことが約束されますので、国立公園内で植林活動を行うことは大きな意味があります。
メルビン副代表はイギリス・ケンブリッジ大学で博士号を取得されており、そのメルビン副代表より、サラワク州においてサラワク森林公社が行っている森林保護活動と、自然保護の枠組みとして新たに取り組んでいる海洋保護の詳細なご説明をいただきました。有村副会長からも本協会の活動や実績を報告し、サラワク森林公社の意欲的な取り組みについて活発な意見交換がなされておりました。

マレーシア・サラワク大学へ訪問
サラワク州クチン市内にあるマレーシア・サラワク大学(UNIMAS)においてはリンダ副学長へ訪問しました。マレーシア・サラワク大学は一九九二年に設立されたサラワク州初の国立大学で、同大学の構内では二〇一八年より高砂熱学工業株式会社のご協力で「タカサゴの森」熱帯雨林再生プログラムを実施しています。今回訪問したのは当大学の副学長ですが、マレーシアにおいて「学長」は名誉職に近いもので、実質的に学校経営のトップは「副学長」が務めています。
有村副会長からはマレーシア・サラワク大学が「タカサゴの森」に約六年間継続してご協力いただいていることへの感謝をお伝えし、本協会の活動の報告も併せて行いました。

リンダ副学長からは訪問を歓迎いただき、これまでの協働事業や今後の活動に関して意見交換をしました。また、マレーシア・サラワク大学の校舎がJICAの「サラワク大学建設事業」による支援で建設されたことへの謝意を述べられました。
なお、本協会では国立研究開発法人科学技術振興機構が運営する「さくらサイエンスプログラム」(科学技術分野における産学官連携の青少年交流事業)をマレーシア・サラワク大学と協力して、二〇一五年から六回に渡り行っておりましたが、リンダ副学長からは当該プログラム実施への謝意と共に、日本との関係に期待を持っている旨お話がありました。

活動地域の視察
本協会の活動地域として、「サバル苗木センター」「道の駅」「サバル国立公園」をご視察いただきました。 サバル苗木センターはN連事業の資金を活用して整備した苗圃で、本協会の苗木を約三万本育苗・管理しています。

道の駅は、N連を活用して「サラワク州先住民居住地域における水環境整備による生活改善事業」を行い得られた生活余力で果樹・野菜の栽培や伝統菓子等の製造を行えるようになったため、水環境改善に伴う生活向上プログラムの一環として村の産物を販売する場所として村落近くの国道沿いに整備したものです。

この道の駅には、「スノーデン・ラワン・サラワク州観光・創造産業・芸術省副大臣」(活動地域選出州議会議員)と「古屋圭司会長」の直筆メモリアルプレートが飾られています。

また、道の駅において有村副会長と小川理事長に記念植樹もしていただきました。

サバル国立公園は本協会の植林活動における主要活動地域の一つであり、イバン族の村人たちが支えてくれている地域です。有村副会長と渡辺秘書には、植林活動中のイバン族の村人との交流もしていただきました。

植林活動始まりの地
本協会では一九九五年よりボルネオ島・サラワク州において熱帯雨林再生の植林活動を行っておりますが、この植林活動始まりの地がサラワク州スリアン地区の「バライ・リンギン保護林」です。
約三十年前に植林した苗木は細く小さなものでしたが、今では大人が抱き着いても指先同士が付かないほど太く逞しい巨木となっています。

このバライ・リンギン保護林では、一九九五年に本協会が熱帯雨林再生のための在来種植林を開始した地域の一角が、サラワク森林局によってシード・バンク(フタバガキ科在来種の種を収集する森林区)に指定され、維持管理されることになっています(日本でいう「指定採取源」に近い制度)。木々が伐採されて荒れていたこの森林区も、今ではボルネオ島の主要な在来種のひとつであるエンカバン・ジャントンの種子を収集する重要な場所となっています。
クチン日本人墓地への訪問
サラワク州クチン市内には、マレーシアの地で亡くなった日本人を追悼する日本人墓地があります。クチン日本人墓地は一九〇〇年代初頭に開設されたとされており、一九六五年に各所に散在していた各墓標が管理人等によって一か所へ移し替えられ整備されました。マレーシアの地に訪れて亡くなられた方々を追悼する場所にて、有村副会長は慰霊碑にて手を合わせ参拝されました。

クチン日本人会との交流
サラワク州クチンに長期滞在する日系企業駐在員などの交流会である「クチン日本人会」の方々と交流会を行いました。サラワク州クチンでの日々の生活から仕事の状況など多くの意見交換ができました。

さいごに
この度の表敬訪問及び視察において、サラワク州首相府をはじめ、関係各所との調整や植林現場等への案内は全て本協会のサラワク州現地コーディネーターである酒井和枝さんが行ってくださいました。約半世紀をサラワク州で過ごされた酒井さんのご手配なくして、有村副会長らが滞りのない有意義な表敬訪問及び視察を行うことは叶いませんでした。この場をお借りして御礼申し上げます。

マレーシア・サラワク州のサバル苗木センターにて