熱帯雨林再生活動

【日本NGO連携無償資金協力・事業報告】2025年1~3月 村落給水システム整備による生活改善と関連機関のネットワーク構築事業

外務省では、日本のNGOによる国際協力は、開発途上国の地域に密着し、住民の支援ニーズにきめ細かく対応する草の根レベルでの支援を行うものとして、日本の国際協力NGOが開発途上国・地域で自主的に企画・実施する国別開発協力方針等の日本のODA政策の内容に沿う経済社会開発事業に対して、政府開発援助資金を供与する「日本NGO連携無償資金協力」を行っています。 本協会は令和六年三月末より、令和五年度日本NGO連携無償資金協力事業として「サラワク州先住民居住地域における村落給水システム整備による生活改善と関連機関のネットワーク構築事業」を、同州スリアン管区バライ・リンギン小地区のサバル国立公園周辺地域にて実施しました。

事業概要

サラワク州サバル国立公園周辺の先住民居住地域において、脆弱な水環境により生活が困窮している先住民村落の人々の生活改善を目的とし、「村落給水システム」の整備による水環境の改善、水源地保全ための植林、水環境改善によって生じる生活余力を活かした生活向上プログラムと自立的な水環境維持管理、関係機関と協力して農作改善及び環境衛生教育プログラムを実施します。

事業地及び背景

事業地が位置するバライ・リンギン小地区は、面積一三一四㎢(東京二三区の二倍強)、人口一万五一六五人、集落数二二一、人口密度一二人/㎢、貧困率一九・九%、給水状況は水道二三・一%、その他(村落給水)七六・九%で、町から最も遠いサバル国立公園周辺地域は水道がなく、貧困率の高い地域です(資料・サラワク州統計二〇二〇)。サバル国立公園周辺地域(人口約三千人)は、州都クチンから車で約二時間、インドネシア国境付近に位置し、主に先住民族のイバン族の小さな村々が点在しています。 サバル国立公園は、伐採跡地に自生した二次林を州政府が森林再生地に指定した保護林区内にあり、二〇一八年に国立公園へと昇格した森林区です。本協会では、二〇一一年からサラワク州森林局及び森林公社、マレーシア・サラワク大学、地域社会と協働し、同森林区でフタバガキ科等在来種及び在来果樹の植林による熱帯雨林再生活動を実施していますが、村落では水不足が生活を圧迫し、住民から水環境改善への要望が寄せられ、解決すべき課題との一つとなっていました。

事業目標

・先住民族居住地域において、村落給水システムの整備によって水環境が改善され、それに伴う生活向上プログラムによって生活余力が生み出される。

・村落給水システムを維持管理するための住民組織が形成され、自立的な活動が継続される。

・州政府機関、地区役所、国立大学、現地NGO、村落組織の連携によるネットワークが構築され、事業成果の共有と他地域へ普及するための体制が形成される。

事業内容

当事業では、次の対象地域において以下の活動を実施します。

サバル・アピン村(先住民イバン族の村、人口約二〇〇人、以下アピン村)、サバル・タパン(先住民イバン族と華人の村、人口約一〇〇人、以下タパン村)合計、約三〇〇人。

1 関係機関のネットワーク立ち上げ

活動地域は広大な地域に村落が点在しているため、村落の状況を把握するのが難しく、村同士の繋がりもあまりありません。そのため、関係機関とのネットワークを立ち上げ、共同調査や定期的な会合を行いました。

2 給水システム整備計画作成と村の会合開催

対象地域の現状に適した整備計画を作成し、村落住民への周知と話し合いを経て、活動内容を決定しました。

3 村落給水システムの整備

給水システムを整備して、村落の水環境を改善します。堰堤を村の水源地に造成し、表流水の水位を上げて圧を得て、村まで敷設するパイプを通じて導水し、常時、生活用水が得られるようにしました。老朽化したPCBパイプのHDPEパイプへ交換・敷設と、コネクターの交換を行いました。村落に給水システム管理チームを形成し、堆砂除去やパイプの点検による堰堤と導水機能を維持管理し、自立的な運用を行う体制を形成しました。水源地周辺に植林を行い、長期的な水源機能の保全を図りました。

4 水環境改善後の村落調査と農作改善プログラム

水環境改善により生じる生活余力を活かした、生活改善のための農作改善プログラムを、政府機関や大学などの専門家と調査・検討を行い、村人との協議を経て導入しました。

5 現地NGOとの協働関係の立上げ

本協会が植林プロジェクトで提携しているマレーシア・サラワク大学関係者が中心となり、二〇二〇年八月に発足した現地NGOとの協働関係を立ち上げ、当事業の関係機関ネットワークに参加するとともに、村落調査や農作改善プログラムの検討を共に行いました。

事業地域の状況

マレーシアにおける新型コロナウィルス感染拡大後の政府の標準作業手順(SOP)に沿って活動を実施しています。  

本年一月から三月までの進捗状況をご報告します。

最近の主な活動

●関係機関のネットワーク立ち上げ

一月から三月末まで、現地事業担当者が専門家やNGO関係者とサラワク州政府機関や活動地域の地区役所、村落組織と協働し、事業の進捗状況の共有と村落給水状況や農作改善のための調査と導入への取り組みを行いました。

一月二〇日(月)、サラワク州鉱物・地球科学局にて、水源地や給水システムの維持管理と水質調査の実施について協議しました。

州政府機関と協議

●村落給水システムの整備

 昨年九月末に水源地からアピン村への導水パイプとタパン村への導水パイプの内、老朽化したPCBパイプをHDPEパイプへ交換・敷設(合計四㎞)作業が完了し、その後、各村落で自主的な維持管理をしています。  導水パイプルートと各村落中心部に事業看板を設置し、日本の協力で整備されたことを改めて告知すると共に、本協会でも引き続き村落組織と協力し、生活改善に取り組んでいきます。

導水パイプルートに設置
アピン村に設置

●水源機能保全のための植林

 昨年一二月までに水源地周辺でフタバガキ科等在来種の苗木三千本を植林し、その後、メンテナンス作業を行いました。  

三月末に州政府機関と専門家が水源地周辺の植栽木を確認すると共に定期的な水質検査を行うため水源地の水の採取を行いました。

水源地周辺の調査

●給水システム維持管理のためのワークショップを開催  

三月一日(土)、村の集会場でアピン村、タパン村の住民を対象にワークショップを開催しました。

事業成果を報告

事業担当者による成果報告の後、専門家が導水システムの維持管理方法、給水した水の飲用水としての適切な利用方法、水浴び、食器洗い、洗濯、トイレにおける生活用水としての効率的な利用方法、水環境改善後の生活余力による生活改善への取り組みなどについて説明し、質疑応答を行いました。

専門家によるワークショップ

●水環境改善後の村落調査と農作改善プログラム導入  

村落給水システム整備が完了後、農作改善プログラムを検討し、村落組織との導入協議を行いました。

村落女性委員と協議
村落男性委員と協議

その後、アピン村及びタパン村において、村落周辺のこれまで使用されていなかった土地において、水環境改善による人的・水量的余力を用いて、新たにタピオカ、トウモロコシ、パイナップルなどの栽培を開始しました。また、新たに自主的な養鶏を始める準備をしている家庭もあり、水環境改善によって生活向上への村の意識が変化してきています。

新たに植え付けたタピオカ

今後も、現地NGOや関係機関とのネットワークにより、村落給水や農作改善の普及に努める予定です。

二年目の事業を開始

本年三月末日より、令和六年度事業として「サラワク州先住民居住地域における村落給水システム整備による生活改善と関連機関のネットワーク構築事業」を新たに開始しました。

当年度は、サバル国立公園周辺地域のスンガイ・クラ村とサバル・ジャヤ村の住民約四〇〇名を対象に、次の事業を行います。

●村落給水システムの整備

 水源地への作業道整備(一・二㎞)、堰堤の造成(一か所)、水源地から村までの導水パイプ劣化部分の交換・敷設(〇・五㎞)、導水パイプ全体の接続部品交換、給水システム自主管理組織形成、水源管理ワークショップ開催、水源機能保全のための植林とメンテナンスを実施。

●村落調査及び農作改善

 関係機関とネットワークを形成し、水環境改善前後の村落調査及び農作改善と生活改善プログラムの作成と導入を実施。

●環境・衛生教育プログラム

現地NGOの専門家と協働し、対象村落の水環境調査や水源地保全のための植林指導を実施。対象村落の子供達が通う地域の小学校(二校)にて、村落給水システム整備と水源地保全の必要性について理解を深めるための環境教育プログラムと手洗い、うがい、歯磨き等の保健衛生研修を実施。

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